昨年9月に発生した台風12号、15号により和歌山県、奈良県、三重県を中心とした大規模な豪雨災害が発生しましたが、その被災地である奈良県南部の現在の状況について、史料ネット運営委員の澤井廣次さんがレポートを寄せて下さいましたので、転載させていいただきます。(か)

紀伊半島大水害における奈良県南部被害状況報告

文責:澤井廣次

  • 実施日:2012年5月13日(日)
  • 参加者:谷山正道(天理大学教授)、澤井廣次(神戸大学大学院人文学研究科)

はじめに

2011年9月に発生した台風12、15号被害は奈良県南部に大きな被害をもたらした。被災当時は道路状況が悪く、立ち入ることが困難であったが、2012年2月8日に警戒区域がすべて解除され、交通規制が徐々に緩和しつつあるため、2012年5月13日に五條市大塔町・十津川村を中心に状況視察を行った。

国道168号線沿い

  • 五條市大塔町の被害状況

まず五條市中心部から168号線を走り、五條市大塔町へと向かった。大塔町辻堂地区では、大まかなゴミ・流材は処理されたと思われるが、土砂により道路が遮断されたままであり、かついまだデイサービスセンターなどが土砂に埋まったままであった【写真1】。

 

次に訪れた大塔町宇井地区でも集落の間際に発生した大規模な土砂崩れがそのままの状態で残っていた【写真2】。なお辻堂地区・宇井地区ともに人影はなく、住民はすべて仮設住宅などに避難しているものと思われる。さらに河川流域においてはショベルカーなどが目撃でき、復旧工事が進行している様子が窺えるが、集落及び集落へ繋がる道路(幹線道路ではなく、ローカルな道路)には工事の手が入った様子はない。

写真2

 

○十津川村の被害状況
大塔町宇井地区から15分ほど走ったところにある十津川村長殿地区でも状況は同様であり、国土交通省によって応急橋梁が出来ているものの、土砂に埋まったままの自動車が存在するというような状況であった【写真3】。

 

写真3

同村宇宮原地区では山崩れにより旧道が完全に埋まってしまっていた【写真4】。

 

写真4

今回の視察では上記の二地区の被害が大きく見えたが、それ以外でも土砂崩れや仮設橋梁などがいくつも散見できた【写真5】。

写真5

国道425号線沿い

168号線沿いと比較すれば被害は小さいが、道路の復旧の不十分さは否めない【写真6】。さらに湧き水が吹き続けている場所があるなど、次に大規模水害に見舞われた際にはどうなるのかと不安になる部分が少なくなかった。

写真6

 

国道169号線沿い

こちらも168号線沿いと比較すれば被害は小さい。1ヶ所迂回路が設置されている場所が存在したが、それ以外は大した被害がなく、また425号線沿いのような怖さを感じることもなかった。

歴史資料の被害状況について

参加者2人とも大塔町・十津川村の資料状況について深く知らなかったため、十津川村歴史民俗資料館でお話を伺うこととした。
現在のところ資料館の方及び教育委員会が把握している範囲では、古文書の被害はなく、民具の被害が1件あった。この民具被害についてはすでに教育委員会を通じて対応・処置が行われており、現在香芝市で対応しているとのことであった。
また、資料館の方・教育委員会が把握していない歴史資料の被害もあると考え、地元の歴史資料に詳しい方をご紹介いただき、お話を伺うことにした。可能であればその方の案内のもと旧家を巡廻する予定であったが、その方と連絡が取れず、日を改めることとした。
日記・アルバムなどについても、史料ネットやわかやまネットで対応している旨を伝え、そのような情報があれば連絡してくれるように伝えた。
指定文化財については、奈良県HPにあるので割愛する。

【注】
台風12号による県下指定文化財の被害状況について(平成23年12月22日現在、奈良県文化財保存課)
http://www.pref.nara.jp/secure/76486/houkoku.pdf

おわりに

今回は状況の視察に重点を置いたため、踏み込んだ活動はできなかった。また状況の視察と言っても幹線道路がその中心であり、脇道・旧道の被害状況まで把握できなかった。しかし425号線沿いの状況を鑑みれば、脇道・旧道の状況はより深刻な状況にあると思われる。これらの状況把握は今後の課題である。
また歴史資料の状況に関しては、今回の視察で得られたものは多くない。後日教育委員会・地元の方からお話を伺う機会を設けることとなり、今後の進展に期待する。ただ、これは十津川村に限っての状況である。大塔町に関しても合併先の五條市の教育委員会からお話を伺う予定であるが、五條市とは地理的にも歴史的にも一体感があるとは思えない大塔町の状況について、どこまで踏み込んだ情報がその場で得られるか不安である。今後はその地域に即した対応が必要であると思われるが、対応のあり方などについては、多くの方の協力を得て一歩ずつ進めていく必要があろう。
昨年の大水害の傷跡も癒えず、今後の水害の影響も非常に不安である上に、県の復興計画に集落移転が明記されている。そのような状況を鑑みると、歴史資料をめぐる状況は深刻であると思われ、今後の継続的な活動が重要になろう。