東北地震被災地の歴史資料・文化財関係者の皆様へ

 このたびの大震災で被られた大きな被害と、今も続く不自由な生活に対し、謹んでお見舞い申し上げます。

 私たち歴史資料ネットワーク(事務局・神戸大学文学部内)は、阪神・淡路大震災の被災地で、歴史資料を始めとした文化遺産の救出・保全をおこなってきた歴史研究者の団体です。私たちは、1995年1月の震災時に、全国の歴史学会など関係団体から支援をうけて、自治体や市民と協力しながら、地域社会の民間資料の救出や文化財の被害調査などをおこなってきました。また、今日も引き続き被災地における文化遺産の保全・再生に取り組んでいます。

  この阪神・淡路大震災における歴史資料・文化財の保全復旧活動は、少なくない成果をあげました。また、当初心配されていた被災住民の反感もほとんどなく、むしろ好意的な反応がほとんどでした。しかし、その一方で、損壊建築物の解体の際に焼かれたり、道路復旧で撤去・破壊されたりした古文書や石造物も多く、それまであった文化遺産の三分の二が、被災地域から消失してしまったという報告もあります。前例がなかったこともあり、活動の始動が地震発生から約1ヶ月後と、遅かったことが現在の反省点の一つとして挙げられています。

 その反省をふまえ、2000年の鳥取県西部地震や2001年の芸予地震では、阪神・淡路大震災の経験を伝えるのみでなく、神戸市から被災地へ多くのボランティアを派遣し、地震直後から活動を開始しました。その際、現地でいち早く、組織的な保全活動についての体制がとれるかどうかが、その後の地域遺産保全をすすめる上で重要であることが明らかになりました。

  今回の東北地震の被災地は、歴史的環境の豊かな地域として知られています。収蔵施設に保管されているもの、文化財指定を受けているものの他にも、地域のあちらこちらに、先人の営為を伝える歴史資産、文化遺産が数多く存在するはずです。 それらが今回の大地震を乗り越えて保全されれば、被災地域の社会や文化の復興に大きな力になります。古文書・写真・日記・さまざまな個人や団体の文書や記録、民具・石造物など地域遺産が、震災のせいで姿を消してしまわないよう、関係者は手立てを尽くすべきであると考えます。 これまでの経験からすると、被害が小さくとも 旧家の本屋や蔵のわずかな雨漏りなどが原因で撤去・建て替えがあり、その際存在を認識されていない古文書等がひんぱんに廃棄される可能性があります。私たちは、地震後の地域遺産の保全に携わってきたものとして、出来うる限りの支援・協力をしていくつもりです。地元での保全活動をすすめられるようお願いする次第です。

2003年5月27日

歴史資料ネットワーク 代表 奥村 弘(神戸大学文学部助教授)

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