2003528

報道関係者 各位

歴史資料ネットワーク

代表:奥村弘(神戸大学文学部助教授)

 

東北地震被災地に歴史資料・文化遺産への注意を喚起する記事掲載のお願い

 

 このたびの大震災で被られた大きな被害と、今も続く不自由な生活に対し、謹んでお見舞い申し上げます。また、昼夜を問わず情報発信に奮闘されている報道関係者に敬意を表します。

 私たち歴史資料ネットワーク(事務局・神戸大学文学部内)は、阪神・淡路大震災の被災地で、歴史資料を始めとした文化遺産の救出・保全をおこなってきた歴史研究者の団体です。私たちは、19951月の震災時に、全国の歴史学会など関係団体から支援をうけて、自治体や市民と協力しながら、地域社会の民間資料の救出や文化財の被害調査などをおこなってきました。今日も引き続き被災地における文化遺産の保全・再生に取り組んでいます。

 私たちがこの活動を始めたのは、博物館や図書館に収蔵されている史料や、国や自治体の指定文化財だけでなく、住民の生活空間のなかにある歴史遺産が、地域史の復元には欠かせないという思いからでした。

 阪神・淡路大震災における歴史資料・文化財の保全復旧活動は、少なくない成果をあげました。被害調査で新たに発見された史料も少なくありません。また、当初心配されていた被災住民の反感もほとんどなく、むしろ「地域の記憶を次代に残すことができた」といった好意的な反応がほとんどでした。

しかし、その一方で、損壊建築物の解体の際に焼かれたり、道路復旧で撤去・破壊されたりした古文書や石造物も多く、それまであった文化遺産の三分の二が、被災地域から消失してしまったという報告もあります。前例がなかったこともあり、活動の始動が地震発生から約1ヶ月後と、遅かったことが現在の反省点の一つとして挙げられています。

 その反省をふまえ、2000年の鳥取県西部地震や2001年の芸予地震では、阪神・淡路大震災の経験を伝えるのみでなく、神戸市から被災地へ多くのボランティアを派遣し、地震直後から活動を開始しました。その際、現地でいち早く、組織的な保全活動についての対背がとれるかどうかが、その後の地域遺産の保全を進める上で重要であることが明らかになりました。

 今回の東北地震の被災地は、歴史的環境の豊かな地域として知られています。収蔵施設に保管されているもの、文化財指定を受けているものの他にも、地域のあちらこちらに、先人の営為を伝える歴史資産、文化遺産が数多く存在するはずです。それらが家屋の修理や解体の際、また荷物の片付けの際に、捨てられたり売られたりする危険があります。特に高齢者だけの家、空き家になっている家の場合、その可能性はより高くなります。「役に立つと知っていたら捨てなかったのに」と叱られたこともしばしばありました。地域の中の歴史遺産を災害による滅失から守るためには、専門家やマスコミが早くから注意を喚起しなければならないというのが、阪神大震災の教訓の一つです。

今回の大地震を乗り越えて古文書・写真・日記・さまざまな個人や団体の文書や記録、民具・石造物など地域遺産が保全されれば、被災地域の社会や文化の復興に大きな力となります。これらが、震災のせいで姿を消してしまわないよう、関係者は手立てを尽くすべきであると考えます。

わたしたちはすでに、岩手・宮城両県の大学・博物館・図書館・史料保存機関など地元関係者と連絡をとり、情報収集と対応協議を進めています。61日は当ネットワークのメンバーが現地入りし、被害状況調査と地元との協議を行う予定です。

阪神・淡路大震災の教訓を活かし、地域の歴史遺産を消滅から守るため、是非貴社にこの問題を取り上げていただくよう、お願いします。コメントや資料の提供など、取材には最大限の協力をさせて頂きます。

阪神・淡路大震災、鳥取県西部地震および芸予地震の際の活動に関する資料は、後日郵送させていただきますのでご参照ください。取り急ぎ、ファックスにてお願い申し上げます。なお、インターネット(下記アドレス)でも情報を掲載しておりますのでご参照ください。

歴史資料ネットワーク

代表 奥村 弘(神戸大学文学部助教授) 

657-8501 神戸市灘区六甲台町1-1 神戸大学文学部内

TEL&FAX 078-803-5565(平日13時〜17時)

URL:http://www.lit.kobe-u.ac.jp/~macchan/

e-mail:s-net@lit.kobe-u.ac.jp