1 被災史料の整理や被災地での調査活動
阪神・淡路大震災や2004年台風23号時の保全史料のうち、事務局保管の未整理分について整理作業を進めるという活動方針に基づき、以下の整理作業を行った。
2004年台風23号に伴う文書整理と受入
2004年台風23号によって被災した田尻一雄家文書(兵庫県豊岡市)は現在、所蔵者からの寄贈をうけ、史料ネットが保管している(段ボール10箱)。乾燥作業は完了しているものの、固着展開や、汚れ・臭いの除去が課題として残っていた。今年度は、絵画修復専門の谷村博美氏(宝塚大学)の協力を得て、学生・市民ボランティアと共同で、史料のクリーニング、固着展開、整理作業を進めた。2012年6月現在、全体の10分の1の量の処置を終えたばかりであり、今後も継続して処置を続ける必要がある。
2 市民や自治体との連携を重視した地域史研究や地域遺産保存・活用の取り組み
今年度は、総会後のシンポジウムのほか、兵庫区と連携した講演会などを開催した。
史料ネット主催シンポジウム・講演会
2011年6月12日のシンポジウム「東日本大震災 関西で何ができるのか?―阪神・淡路大震災16年の経験をふまえて―」では、被災歴史資料保全活動の現状と課題(川内・吉川報告)、災害の記録の収集・保存(板垣・人見報告)、それとの関連で災害史研究(添田報告)などの視点から、東日本大震災の現場にむけて、関西から何ができるかについて議論した。被災資料の保全や災害資料の収集など、現在進行形の問題とのかかわりで活発な議論がなされた。
2012年2月18日の兵庫区歴史講演会「清盛塚からみた兵庫」では、昨年にひきつづき兵庫区と連携し開催することができた。NHK大河ドラマ「平清盛」とも関連する内容であり、例年通り多くの来場者によって盛況であった。
「シンポジウム地域資料の保存と活用を考える」実行委員会への参加
今年度も地域資料シンポ実行委員会に構成団体として参加し、大阪府・市の公文書館問題に関わる活動などに協力した。大阪府では、府公文書館が2011年4月に公文書総合センターとして移転・再開し、利用者の利便性が向上するなど順調に運営されている部分もあるが、大阪府庁舎の移転問題は依然継続しており、今後も状況を注視しつつ、同館の利用拡大にむけた協力も含め、支援の働きかけを続ける必要がある。大阪市でも、2011年4月に改正市公文書管理条例が施行され、利用請求権の明記、「時の経過」を考慮した歴史公文書の公開基準策定など、制度面では大きな前進があった。しかし、オール非常勤による館運営の継続、歴史公文書選定方法の変更検討など、懸念される点も少なくない。引き続き対応が必要である。
実行委員会では、7月に拡大研究会を開催し、石原一則氏の講演、シンポ実行委員会からの大阪府・市公文書館問題の現状報告をめぐって活発な議論がなされた。
また2012年4月、ホームページ「大阪歴史資料NAVI」を開設した。今後、コンテンツの充実化を図りながら、ネットワーク拡大の手段として大いに活用を進めていく必要がある。
神戸・阪神歴史講座
今年度も後援団体として本講座に参加した。この講座は、神戸史学会と、尼崎の市民団体サロン・ド・サモンの主催によるもので、2010年度から始まり、古代から現代に至る神戸・阪神間の歴史に関する連続講座を開催してきた。今年度は、3月に石川道子氏による講演会を開催したほか、これまでの取り組みの成果として神戸―尼崎海辺の歴史―古代から近現代まで (のじぎく文庫、2012年)が出版された。その記念企画として6月に講演会を開催した。
地域史卒論報告会
神戸史学会との共同企画「地域史卒論報告会」も7回目を開催し、定着してきた。これは、大学院には進学せず一般企業などへ就職し、かつ主に兵庫県をフィールドとする地域史を卒論のテーマにした学生が市民の前で報告を行うという企画で、歴史系の大学で勉強した学生が、社会に出た後も地域遺産や史料を守る活動を続けるきっかけづくりとすることを目的としている。今回も、大学院進学者以外の卒業生の参加を得た。卒論での成果を社会に広く還元するという本企画の目的を達成することができた。
活動一覧
- 主催=シンポジウム「東日本大震災 関西で何ができるのか?―阪神・淡路大震災16年の経験をふまえて―」
- 2011年6月12日(日)@西宮市大学交流センター 参加約35名
- 報告:川内淳史「被災資料保全活動の状況と史料ネットの取り組み」、吉川圭太「現地活動レポート」、 板垣貴志「震災資料の収集・保存をめぐって」、人見佐知子「震災体験を聴く」、添田仁「緊急レポート 西摂地域を襲った地震・津波の記録」
- 共催=地域資料シンポ拡大研究会「自治体文書館が目ざすべき道―公文書管理法施行をうけて―」
- 2011年7月18日(月)@大阪市総合生涯学習センター 参加約40名
- 問題提起:地域資料シンポ実行委員会事務局「大阪府市公文書館問題の到達点と課題」
- 講演:石原一則「公文書管理法と自治体アーカイブズ」
- 主催:「シンポジウム地域資料の保存と活用を考える」実行委員会
- 参加・協力=第13回 火垂るの墓を歩く会
- 【西宮コース】
- 2011年8月6日(土)
- 阪急甲陽線苦楽園口駅→ニテコ池→夙川沿い南下→香櫨園浜
- 【御影コース】
- 2011年8月9日(火)
- 阪神御影駅→石屋川公園(火垂るの墓モニュメント)→御影公会堂→成徳小学校→JR六甲道駅
- 主催=「火垂るの墓を歩く会」実行委員会
- 協力=神戸空襲を記録する会、歴史資料ネットワーク
- 【西宮コース】
- 共催=兵庫区歴史講演会「清盛塚からみた兵庫」
- 2012年2月18日(土)@兵庫公会堂大集会室 参加約300名
- 創作落語:桂三ノ助「平成の清盛―福原遷都物語」
- 講演:奥村弘「もう一つの清盛―地域歴史遺産としての清盛塚」、藤田明良「“清盛塚”の誕生―中世兵庫津の歴史―」、吉原大志「清盛伝説と神戸市民―清盛塚の移転―」
- 共催=兵庫区・兵庫区民まちづくり会議「平清盛ゆかりのまち」発信事業実行委員会
- 後援=第5回 神戸・阪神歴史講座
- 2012年3月4日(日)@尼崎市中央地域振興センターコミュニティホール
- 参加=約130名
- 講演:石川道子「尼崎城下の江戸積み酒造業」
- 主催=神戸史学会、サロン・ド・サモン、尼崎市市民運動中央地区推進協議会
- 後援=歴史資料ネットワーク、尼崎市、神戸大学大学院地域連携センター
- 共催=第7回 地域史卒論報告会
- 2012年3月18日(日)@六甲道勤労市民センター 参加約25名
- 報告:近藤育海(神戸大学)「幕末期尼崎藩の戦時対応―儒者服部清三郎の意見書から―」、市橋なな子(神戸大学)「1970年代西淀川における公害教育の展開とその意義」、田口康介(大阪市立大学)「京都市第一次市域拡張と地域社会―下鴨村編入反対運動を事例に―」、横山聡子(神戸大学)「記憶を紡ぐ―神戸空襲を記録する会の軌跡をたどって―」
- 共催=神戸史学会
3 震災記録保存と文化財防災
被災文化遺産支援コンソーシアム(CEDACH)への協力
2011年3月に考古学研究者を中心に組織された被災文化遺産支援コンソーシアムは、復興過程での発掘調査増加に備え地理情報システム(GIS)を活用した遺跡地図整備や、石巻文化センター文献資料室の図書目録の電子化に取り組んでいる。史料ネットでは7月3日に開催された拡大研究会で宮城県農業高校の資料保全活動などについて報告したほか、ボランティア募集に協力するなどした。
水損史料修復ワークショップと学会等での報告
今年度も引き続き、水損史料修復ワークショップと学会等での報告を下記の通り行った。
日本史研究会例会をはじめとする学会やシンポジウムの場で報告・実演を行ったほか、大阪歴史学会等の学会大会における緊急集会の場で被災歴史資料保全活動に関する報告を行った。また今年度新たに設立された茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク準備会設立シンポジウムにおいて報告を行うなど、史料ネットのこれまでの活動蓄積を積極的に発信し、各地ネットや学会との共有に努めた。
活動一覧
- 参加・協力=大阪歴史学会大会 昼休み緊急集会
- 2011年6月26日(日)@神戸大学国際文化学部 参加約120名
- 報告:奥村弘、吉川圭太
- 主催=大阪歴史学会
- 参加・協力=東日本大震災 茨城の文化財・歴史資料の救済・保全のための緊急集会「文化財・歴史資料の救済のために、いま、何ができるのか」
- 2011年7月2日(土)@茨城大学理学部 参加約120名
- 報告:奥村弘「いま歴史資料救済のために何をすべきか、何ができるのか―阪神・淡路大震災の歴史資料保全活動から―」、松下正和「いま歴史資料救済のために何をすべきか、何ができるのか―地震・津波被災史料保全の後方支援活動―」ほか14本の現地活動報告
- 主催=茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク準備会
- 共催=茨城県教育委員会、茨城県立歴史館、茨城大学人文学部
- 参加・協力=被災文化遺産支援コンソーシアム第1回拡大連絡会
- 2011年7月3日(日)@大手前大学史学研究所 参加約30名
- 報告:河野未央、松岡弘之
- 主催=被災文化遺産支援コンソーシアム
- 参加・協力=第10回地域歴史資料学研究会
- 2011年7月8日(金)@八瀬家住宅
- 尾立和則・松下正和「水損した襖下張り文書の保全作業について」
- 主催=科学研究費基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」(研究代表者:奥村弘)
- 参加・協力=奈良歴史研究会 公開シンポジウム「東日本大震災 奈良で考える復興と文化」
- 2011年7月9日(土)@奈良女子大学 参加約40名
- 報告:吉川圭太「歴史資料の救出・保全活動から見た現地の被害と復興」、福井亘「歴史的景観の被害と復興の課題」、金田明大「救援体験から考える文化遺産の防災・復興の課題」、田中慶治「98年台風体験から考える奈良の地域遺産防災の課題」
- 主催=奈良歴史研究会
- 参加・協力=神戸大学史学研究会 講演会
- 2011年7月16日(土)@神戸大学瀧川記念学術交流会館 参加者約20名
- 講演:澤井廣次「東日本大震災と歴史資料ネットワークの活動―レスキュー活動の背景にあるもの―」、川内淳史「東日本大震災における被災歴史資料保全活動―歴史資料ネットワークの活動を中心に―」
- 主催=神戸大学史学研究会
- 参加・協力=人と防災未来センター資料室企画展「兵庫と水害」関連企画 水濡れ資料応急処置ワークショップと東日本大震災被災資料レスキュー写真展
- 2011年7月30日(土)@人と防災未来センター 参加約50名
- 実演:松下正和・吉原大志
- 主催=人と防災未来センター資料室
- 協力=歴史資料ネットワーク、NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク、ふくしま歴史資料保存ネットワーク
- 参加・協力=吹田市立博物館夏季特別展「自然から学ぼう~災害と環境~」関連シンポジウム「災害と博物館~災害時に博物館ができること~」
- 2011年8月7日(土)@吹田市立博物館
- 講師・実演:松下正和
- 主催=吹田市立博物館
- 参加・協力=水濡れ資料の吸水乾燥ワークショップ
- 2011年9月11日(日)@吹田市立博物館
- 報告・実演:松下正和「歴史資料ネットワークによる東日本大震災対応について」
- 主催=吹田市立博物館
- 参加・協力=日本史研究会大会 昼休み集会
- 2011年10月8日(土)@京都女子大学 参加約100名
- 報告:川内淳史
- 主催=日本史研究会
- 参加・協力=大学コンソーシアムひょうご神戸設立5周年記念シンポジウム「震災と復興―いま!ひょうご神戸からの発信―」
- 2011年11月15日(火)@宝塚大学
- 報告:松下正和「東日本大震災における歴史資料ネットワークの後方支援活動について」
- 主催=大学コンソーシアムひょうご神戸
- 参加・協力=平成23年度 富山県歴史資料保存利用機関連絡協議会(富史料協)歴史資料実務担当者研修会
- 2011年11月24日(木)@富山県立文書館 参加者約30名
- 講演:板垣貴志「歴史資料ネットワークの可能性―被災資料の救出から「地域歴史遺産」へ―」
- 実演:人見佐知子・河野未央
- 主催=富山県歴史資料保存利用機関連絡協議会
- 参加・協力=被災地フォーラムin東北「東日本大震災における歴史資料保全活動をふまえた地域歴史資料学の中間提示をめざして」
- 2011年11月26日(土)@秋保の郷ばんじ家
- 報告:松下正和「東日本大震災における歴史資料保全活動の現状と課題~被災地外の立場から」
- 主催=科学研究費基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」(研究代表者:奥村弘)
- 参加・協力=延岡市福祉先進都市づくりシンポジウム「災害から文化とコミュニティーをまもる」
- 2011年12月9日(金)@延岡市中小企業振興センター
- 報告:松下正和「歴史と文化を活かした震災復興とコミュニティー再生~1995阪神・淡路大震災-2011東日本大震災の被災史料保全活動から考える」
- 主催=九州保健福祉大QOL研究機構社会福祉学研究所、延岡市
- 参加・協力=保存科学研究集会2011
- 2011年12月21日(水)@奈良文化財研究所平城宮跡資料館講堂
- 報告:河野未央・松下正和・中岡宏美「大規模自然災害時の歴史資料ネットワークの資料保全活動について」
- 主催=奈良文化財研究所
- 参加・協力=水濡れ資料修復ワークショップ
- 2012年2月14日(火)@土佐山内家宝物資料館
- 報告:松下正和「歴史資料ネットワークによる被災歴史資料保全活動 1995阪神・淡路大震災-2011東日本大震災」
- 主催=こうちミュージアムネットワーク
- 参加・協力=公開フォーラム「地震・津波・洪水と文化財―台風12号被災資料保全活動の経験から―」
- 2012年2月19日(日)@和歌山大学まちかどサテライト 参加約50名
- 報告:蘇理剛志・前田正明「被災資料の確認調査について」、藤隆宏・塩崎誠・砂川佳子「被災資料の救出と保全修復」
- 講演:奥村弘「地震・水害と地域歴史遺産」、加藤幸治「組織論から技術論へ―被災文化財に対して誰が何をできるのか―」
- 汚損史料の洗浄・乾燥実演:松下正和
- 主催=和歌山大学紀州経済史文化史研究所、歴史資料保全ネットわかやま
- 後援=和歌山大学防災研究教育センター
- 参加・協力=山形文化遺産防災ネットワーク2011年度報告会・研修会「次の1000年のために、次の1年のために」
- 2012年3月11日(日)@山形県立博物館講堂
- 報告:松下正和「東日本大震災の文化財救済活動の概要」
- 主催=山形文化遺産防災ネットワーク
- 参加・協力=日本史研究会4月例会「東日本大震災からの提言―京都・滋賀の文化財を守る―」
- 2012年4月14日(土)@機関紙会館 参加者約40名
- 報告:佐藤大介「宮城資料ネットの歴史資料保全活動について」、青柳周一「滋賀県における災害時の歴史資料保全について」、川内淳史「東日本大震災後の歴史資料保全を考える」、蘇理剛志「台風12号被災資料保全活動の経験から」ほか、京都市消防局からの報告
- 主催=日本史研究会
- 参加・協力=東北大震災と自然史系博物館 被災自然史標本の修復技法と博物館救援体制を考える研究集会
- 2012年4月30日(月)@大阪市立自然史博物館
- コメント:松下正和
- 主催=西日本自然史系博物館ネットワーク、日本学術会議自然史・古生物学分科会、大阪市立自然史博物館
- 参加・協力=大阪歴史科学協議会5月例会「歴史資料保存と歴史学」
- 2012年5月12日(土)@クレオ大阪中央 参加約35名
- 報告:町田哲「奥村弘『大震災と歴史資料保存―阪神・淡路大震災から東日本大震災へ―』を読んで―地域史の見地から―」、奥村弘「日常的な営みは災害時にどのように活かされるのか―実践的「史学概論」形成のために」
- 主催=大阪歴史科学協議会
- 参加・協力=和歌山県立博物館 特別展「災害と文化財―歴史を語る文化財の保全」関連講演会
- 2012年5月13日(日)@和歌山県立近代美術館
- 講演:松下正和「水損・汚損資料の応急処置―「史料の救命士」ボランティアへのお誘い―」
- 主催=和歌山県立博物館
- 参加・協力=2012年度宮崎県博物館等協議会 第1回研修会講演・ワークショップ
- 2012年6月8日(金)@宮崎県総合博物館
- 報告:松下正和「歴史資料ネットワークによる被災歴史資料保全活動 1995阪神・淡路大震災-2011東日本大震災」
- 主催=宮崎県博物館等協議会
- 参加・協力=第12回地域歴史資料学研究会「水損資料救済取り扱いワークショップ」
- 2012年6月17日(日)@敦賀短期大学
- 報告:松下正和「汚損資料の洗浄・乾燥方法の概要について」
- 主催=科学研究費基盤研究(S)「大規模自然災害時の史料保全論を基礎とした地域歴史資料学の構築」(研究代表者:奥村弘)
- 参加・協力=文化財科学会大会第29回大会
- 2012年6月23(土)-24日(日)@京都大学文学部
- 報告:松下正和・金田明大、「被災文化遺産支援コンソーシアムの活動-防災遺産学の提起」
- 主催=文化財科学会
4 災害対策
東日本大震災・長野県北部地震
2011年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)とそれに伴う津波と、その翌日に発生した長野県北部地震により、東日本地域は甚大な被害に見舞われた。史料ネットは昨年度に引き続き、大震災の被災地における被災歴史資料保全活動に取り組んだ。大震災被災地では、宮城・岩手・福島・茨城・山形・栄村・新潟の各ネットが被災地での資料レスキュー、およびクリーニング、整理作業を継続して行っているものの、震災発生から1年以上が経過した現在も、被害の甚大性・広域性により、今後さらなる保全活動が必要とされる状況である。また福島第一原発事故の影響を受ける福島県浜通り地域での活動が未だ困難な状況にあるなど、課題も多く残されている。こうした状況に対して史料ネットでは、人的・物的両面からの後方支援を軸にした活動を行ってきた。今後も被災地の状況を見極めながら、必要な支援を継続して行っていく必要がある。
なお、以上のような支援活動の資金源として、史料ネットには900万円を超えるカンパが寄せられたほか、稲盛財団および企業メセナ協議会からの助成金を受けた。
台風12・15号による紀伊半島水害
2011年9月には、台風12・15号によって和歌山県・奈良県・三重県などが大きな被害に見舞われた。史料ネットは緊急事務局体制で対応し、被災地の情報収集・連絡にあたった。
和歌山県では、この水害を機に結成された「歴史資料保全ネット・わかやま」の立ち上げ支援を行ったほか、被災地の巡検および被災資料クリーニングに参加するなど、資料保全に関するノウハウを提供した。
奈良県では、2012年5月に委員が被災地の視察を行った。いまだ復旧作業が手つかずの地域が多く、今後も地元研究者との情報交換を密にし、対応を協議する必要がある。
5 組織と運営
今年度の運営委員会は第106回(2011年6月27日)から第119回(2012年6月25日)までの計16回を開催した(台風12号対策のための臨時委員会を2回含む)。運営委員の委員会への出席率もよく、活発に意見を交わした。
2011年度 運営委員・事務局・会計監査委員一覧(五十音順)
- 〈運営委員〉
- 板垣貴志(個人会員からの選出)・大国正美(神戸史学会)・大月英雄(大阪歴史科学協議会)・奥村弘(神戸大学史学研究会)・川内淳史(大阪歴史科学協議会)・北嶋奈緒子(大阪歴史科学協議会)・久保田裕次(個人会員からの選出)・河野未央(個人会員からの選出)・佐賀朝(大阪歴史科学協議会)・澤井廣次(大阪歴史学会)・添田仁(個人会員からの選出)・中岡宏美(個人会員からの選出)・藤田明良(個人会員からの選出)・松岡弘之(大阪歴史科学協議会)・松下正和(個人会員からの選出)・吉川圭太(個人会員からの選出)・吉原大志(日本史研究会)
- 〈事務局〉
- 奥村弘(代表)・藤田明良(副代表)・松下正和(副代表)・川内淳史(事務局長)・人見佐知子(事務局員)
- 〈会計監査委員〉藤井正太・前田結城
メールニュースの配信や、ブログによる情報提供を行い、ブログのアクセス数も開設当初より60000アクセスを超えるまでになった。また今年度はtwitterアカウント(@siryo_net)を取得し、リアルタイムの情報発信に努めた。以前から懸案であったホームページ全面更新作業は進展し、7月1日に正式に開設した(http://siryo-net.jp)。それにともない、従来のブログを廃止し、ホームページへ一元化した。
また、ニュースレターは、4回(2011年11月11日第67号、2012年1月27日第68号、2012年5月18日第69号、2012年6月29日第70号)発行した。また、過去に発行したニュースレター(第63号~第66号)のPDF化を進め、神戸大学附属図書館震災文庫のホームページ上で公開し、情報発信に努めた。
2012年5月現在の会員数は学会会員9団体、個人会員154名(昨年比2増)、学生・院生会員11名(同比1増)、サポーター66名(同比4増)、ニュースレター購読94名(同比3増)の計334名(同比10増)であった。今年度も東日本大震災をきっかけに新規加入者が多かった。なお、資料保全活動に関わるボランティア登録数は、2012年6月現在40件である。
また各学会の会誌上などで史料ネットの活動紹介やボランティア登録の呼び掛けの協力を賜った。詳細は下記の通りである。
各学会会員の協力
- 大阪歴史学会には、会誌『ヒストリア』230号(2012年2月)に「被災資料保全活動ボランティア登録のお願い」を掲載していただいた。
- 日本史研究会には、同会ホームページに「資料保全活動に関わるボランティア登録のお願い」を掲載していただいた。
- 神戸史学会には、会誌『歴史と神戸』291号(2012年4月)に「資料保全活動に関わるボランティア登録のお願い」を掲載していただいた。
6 出版および論文などの掲載
本年度は、奥村弘『大震災と歴史資料保存: 阪神・淡路大震災から東日本大震災へ』(吉川弘文館、2012年)が刊行された。そのほか、史料ネット委員による論文などの掲載は下記の通りである。
- 澤井廣次「東日本大震災における歴史資料の被災状況と保全・救出活動の経過報告」『ヒストリア』226号、2011年
- 川内淳史「被災資料を救う―阪神・淡路大震災からの歴史資料ネットワークの活動―」『カレントアウェアネス』308号、2011年
- 澤井廣次・吉原大志「被災資料を救うために―東日本大震災における被災資料保全活動―」『ヒストリア』227号、2011年
- 吉川圭太「東日本大震災における歴史資料保全活動現地レポート」『ヒストリア』227号、2011年
- 吉川圭太「歴史資料ネットワークの資料保全活動―阪神・淡路大震災から東日本大震災へ―」『LISN』149号、2011年
- 奥村弘「東日本大震災と歴史学―歴史研究者として何ができるのか―」『歴史学研究』884号、2011年。後に加筆・修正のうえ、歴史学研究会編『震災・核災害の時代と歴史学』(青木書店、2012年)に所収。
- 川内淳史「資料保全活動と東日本大震災「後」の歴史研究」『歴史地理教育』780号、2011年
- 板垣貴志「災害資料の課題と展望―阪神・淡路大震災後の研究蓄積を共有するために―」『日本史研究』597号、2012年
最近のコメント