1 被災史料の整理や被災地での調査活動
阪神・淡路大震災や2004年台風23号時の保全史料などのうち、事務局保管の未整理分について整理作業を進めるという活動方針に基づき、以下の整理作業を行った。
〔2004年台風23号に伴う文書整理とクリーニング作業〕
2004年台風23号によって被災した田尻一雄家文書(兵庫県豊岡市)は現在、所蔵者からの寄贈をうけ、史料ネットが保管している(段ボール10箱)。乾燥作業は完了しているものの、固着展開や、汚れ・臭いの除去が課題として残っていた。今年度も、絵画修復専門家の谷村博美氏の指導のもと、「被災文化財修復ワークショップひぶわ」と協力し、大阪芸術大学短期大学部伊丹学舎にてクリーニング作業を行った。今後も継続して処置を続ける必要がある。
〔東日本大震災被災資料クリーニング作業〕
2011年5月6日に岩手県大船渡市の紙本・書籍保存修復家の金野聡子氏および京都造形芸術大学の大林賢太郎氏らによって救出された、大船渡市赤崎町S家の資料群について、津波被災した近現代史料の一部(衣装ケース4箱分)を管理保管を行っていた宮城資料ネットより受け入れ、2016年3月より月2回のペースでボランティアによるクリーニング作業を行っている。現在ドライクリーニングおよび固着展開を実施しているが、これまで史料ネットの作業に参加したことのなかった新たなボランティアの参加を得るなど、本作業は被災資料保全の担い手を新たに広げる役割も果たしている。今後はドライクリーニングが終了し次第、京都造形大で処理中の資料についても受け入れ、ボランティアによる写真撮影なども実施していく予定である。
2 市民や自治体との連携を重視した地域史研究や地域遺産保存・活用の取り組み
今年度は、総会後のシンポジウムのほか、兵庫区と連携した講演会などを開催した。
〔史料ネット主催・共催シンポジウム・講演会〕
2015年7月5日のシンポジウム「被災史料保全の広がりを考える」では、尼崎市立地域研究史料館の辻川敦氏より、文書館の立場からみた阪神・淡路大震災以降の地域資料の保全・活用に関する議論の変化と、そこにおける被災史料保全の意義について報告された。続いて当会副代表の松下正和より、これまでの史料ネットでの活動を振り返りつつ、自らの実践や研究活動との関わりについて報告された。両報告に対して当会代表の奥村弘、および当会運営委員の大国正美よりコメントがなされ、21年目を迎えた史料ネットの活動について改めて原点に戻りながら、今後の可能性について活発な議論がなされた。
また、2016年2月28日の兵庫区歴史講演会「兵庫城 その歴史を紐解く」では、昨年にひきつづき兵庫区と連携し開催することができた。例年通り多くの来場者によって盛況であった。
〔「シンポジウム地域資料の保存と活用を考える」実行委員会への参加〕
シンポジウム地域資料の保存と活用を考える実行委員会では、引き続きwebサイト「大阪歴史資料NAVI」で大阪を中心とする地域資料関連の情報発信を行いつつ、大阪府・市の公文書館の見学会を開催した。
〔地域史卒論報告会〕
神戸史学会との共同企画「地域史卒論報告会」は11回目を開催した。これは、大学院には進学せず一般企業などへ就職し、かつ主に兵庫県をフィールドとする地域史を卒論のテーマにした学生が市民の前で報告を行うという企画で、歴史系の大学で勉強した学生が、社会に出た後も地域遺産や史料を守る活動を続けるきっかけづくりとすることを目的としている。昨年に引き続き、今回も多くの参加者を得、卒論での成果を社会に広く還元するという本企画の目的を達成することができた。
〔第2回全国史料ネット研究交流集会〕
昨年に引き続き「第2回全国史料ネット研究交流集会」を開催した。今年は東日本大震災から5年目の節目を迎えることもあり、郡山市民プラザ(福島県郡山市)を会場に、福島、宮城、茨城および当会のメンバーからなる実行委員会および国立文化財機構を主催に実施された。本集会にあたっては、当会より実行委員会に人員を派遣するとともに後援団体として名を連ねた。集会では2日間わたって、岡田健氏・斎藤善之氏による講演のほか、全国各地で被災史料保全活動に取り組む16団体からの報告が行われ、当会からは事務局長の川内淳史が報告を行った。集会最後には参加者一同によって、東日本大震災から5年を迎えて、ますます被災地の内外で多くの人びとの連携によって資料保全活動を進めていくことを謳った「ふくしまアピール」が採択された。
主催◎、共催○、後援●、参加・協力△
◎シンポジウム「被災史料保全の広がりを考える」
2015年7月5日(日)@神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ
報告:辻川敦(尼崎市立地域研究史料館)「被災史料保全活動の歴史的意義-文書館の立場から-」、松下正和(歴史資料ネットワーク副代表・姫路大学)「地域史料保全の『実践』を振り返って-災害・史料ネット・地域社会-」、コメント:奥村弘(歴史資料ネットワーク代表委員)、大国正美(歴史資料ネットワーク運営委員) 参加者:25名 インターネット配信配信視聴者数:約10名△第17回 火垂るの墓を歩く会
【御影コース】2015年8月1日(土)
阪神石屋川駅南側公園集合 → 石屋川公園 → 御影公会堂 → 成徳小学校 → JR六甲道駅 解散 参加者:約110名
【西宮コース】2015年8月4日(火)
阪急苦楽園口駅改札口集合 → ニテコ池 → 阪急夙川駅 解散
〔オプショナルツアー〕阪急夙川駅 → 香櫨園浜・回生病院 解散 参加者:約100名
主催=「火垂るの墓を歩く会」実行委員会 協力=神戸空襲を記録する会●第2回全国史料ネット研究交流集会
2016年3月19日(土)/3月20日(日)@郡山市市民プラザ大会議室
1日目講演:岡田健(東京文化財研究所保存修復科学センター長)「文化財の防災とは何か-各地域史料ネットワークの活動への期待-」
報告:西村慎太郎(NPO法人歴史史料継承機構じゃんぴん代表理事)「NPO法人歴史史料継承機構じゃんぴんのミッションと東日本大震災」、福嶋紀子(長野被災建物・史料救援ネット)「神城断層地震と救援ネットの取り組み」、菊地吉修(静岡県文化財等救済ネットワーク事務局)「静岡県文化財等救済ネットワークについて」、瀧川和也(三重県総合博物館)「三重県歴史的・文化的資産保存活用連携ネットワーク(みえ歴史ネット)の取り組み)、藤隆宏(歴史資料保全ネット・わかやま世話人)「ここ1年の和歌山県内の歴史資料保存を巡る状況と歴史資料保全ネット・わかやま」、多和田雅保(神奈川地域資料保全ネットワーク運営委員)「神奈川地域資料保全ネットワークの方向性について」、新田裕二郎(千葉資料救済ネット運営委員)「千葉歴史・自然資料救済ネットワークの活動を通して」、胡光(愛媛資料ネット事務局長)「愛媛資料ネットの活動と防災への活用」、佐藤宏之(鹿児島歴史資料防災ネットワーク(準備会))「島嶼地域の資料保全」、添田仁(茨城史料ネット事務局長)「関東・東北豪雨水害 水損した文化遺産の救出と保全」、白井哲哉(茨城史料ネット副代表)「関東・東北豪雨水害 水損した常総市役所行政文書の救出、保全、復旧作業」、白水智(地域史料保全有志の会)「救出文化財の活用段階に入った栄村保全活動」
2日目講演:斎藤善之氏(NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク副理事長)「南東北における歴史史料調査のあゆみと東日本大震災」
報告:川内淳史(歴史資料ネットワーク事務局長)「歴史資料ネットワークの活動の成果と課題-30周年に向けて-」、中村元(新潟歴史資料救済ネットワーク事務局)「新潟歴史資料救済ネットワークの2015年度の活動について」、安田容子(NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク)「宮城歴史資料保全ネットワークにおいて美術資料を保全すること」、佐藤正三郎(山形文化遺産防災ネットワーク)「山形県内における地域史料をめぐる最近の新たな動向」、阿部浩一(ふくしま歴史資料保存ネットワーク代表)「東日本大震災から丸5年経った福島と史料ネット」、門馬健(富岡町歴史・文化財等保存プロジェクトチーム)「原子力災害被災地と地域資料保全-富岡町の試み-」
主催=第2回全国史料ネット研究交流集会実行委員会、独立行政法人国立文化財機構
共催=科学研究補助金基盤研究(S)「災害文化形成を担う地域歴史資料学の確立-東日本大震災を踏まえて-」(研究代表者:奥村弘)研究グループ
講演=岩手歴史民俗ネットワーク、NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク、山形文化遺産防災ネットワーク、ふくしま歴史資料保存ネットワーク、茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク、千葉歴史・自然資料救済ネットワーク、NPO法人歴史史料継承機構じゃんぴん、神奈川地域資料保全ネットワーク、新潟歴史資料救済ネットワーク、福井史料ネットワーク、長野被災建物・史料救援ネットワーク、地域史料保全有志の会、静岡県文化財等救済ネットワーク、歴史資料保全ネット・わかやま、岡山史料ネット、山陰歴史資料ネットワーク、愛媛資料ネット、歴史資料保全ネットワーク・徳島、宮崎歴史資料ネットワーク、鹿児島歴史資料防災ネットワーク(準備会))、福島県教育委員会、公益財団法人福島県文化振興財団、福島大学うつくしまふくしま未来センター、東北大学災害科学国際研究所、福島民報社、福島民友新聞社、河北新報社
参加者:2日間のべ約200名◎第11回 地域史卒論報告会
2016年3月13日(日)@六甲道勤労市民センター
報告:木田綺音(神戸大学)「維新期における草莽-多田隊を事例に-」、嶋奈津紀(神戸大学)「天保四年加古川筋の騒動に関する一考察」、星和音(大阪大学))「大阪府における戦時食糧配給」
共催=神戸史学会
参加者:29名○兵庫区歴史講演会「兵庫城 その歴史を紐とく」
2016年2月28日(日)@兵庫公会堂
講演:斎木巌(神戸市教育委員会事務局社会教育部文化財課)「兵庫城の発掘成果について」、大国正美(神戸深江生活文化史料館館長)「兵庫城の歴史的位置を考える-軍事と政治拠点の観点から-」
共催=兵庫区まちづくり会議、兵庫区役所
参加者:約200名◎「熊本地震」に関する緊急報告会
2016年4月28日(木)@神戸市勤労会館
報告:奥村弘、川内淳史、吉川圭太
参加者:22名
3 震災記録保存と文化財防災
〔水損史料修復ワークショップと学会等での報告〕
今年度も引き続き、水損史料修復ワークショップと学会等での報告を下記の通り行った。
今年度は、運営委員や事務局員が全国各地で精力的にワークショップを行ったほか、資料保全に関わる学会等での報告も多数行い、史料ネットのこれまでの活動蓄積を積極的に発信し、各地資史料ネットや学会との共有に努めた。
参加・協力△(五十音順)
△吉川圭太・吉原大志「地域歴史資料の防災・減災対策と史資料ネットワークの役割-宮崎県・静岡県における文化財防災意見交換会」(文化財保存修復学会第37回退会ポスター発表)@京都工芸繊維大学、2015年6月27日△小野塚航一「歴史資料が『商品』になるとき-ヤフオク出品近世史料の動向調査からみえてきた史料保存の課題-」(第54回近世史サマーセミナー分科会)@勝尾寺、2015年7月18日
△松下正和「神戸の災害史-西摂・播磨地域を中心に」(神戸史談会講演会)@こうべまちづくり会館、2015年7月19日
△松下正和・平田正和・吉原大志「文化財を災害から守る-歴史資料保存修復ワークショップ
△奥村 弘「被災者と連携する震災資料収集体制について」(第14回地域防災フォーラム「復興まちづくりと地域創生-岩手大学×神戸大学連携フォーラム」)@岩手大学工学部 復興祈念銀河ホール、2015年8月3日
△川内淳史・吉原大志「被災文化財等の救出活動」(NPO法人文化財を守る会公開講座))@アイセル21、2015年8月22日
△吉原大志「災害と歴史遺産」(和歌山県博物館等災害対策連絡会議研修会)@和歌山県立情報交流センター、2015年8月26日
△川内淳史「『生存』の歴史学と歴史実践-東日本大震災と歴史学・資料保全」(神戸大学史学研究会2015年度総会講演)@神戸大学、2015年8月30日
△奥村 弘「自然災害における地域歴史遺産保全活動の役割-地域社会の再建の中で考える-」(第201回神戸大学RCUSSオープンゼミナール)@神戸市役所4号館1階会議室、2015年9月19日
△前田結城・小野塚航一・加藤明恵「史料のなかの水害、水害のなかの史料/水損史料修復ワークショップ」(連続講座「丹波の歴史文化を知る・つなぐ」@ライフピアいちじま、2015年9月26日
△松下正和「思い出の品物を救おう-水濡れ資料・写真の救済-」(丹波市立植野記念美術館ワークショップ)@丹波市立植野記念美術館、2015年9月27日
△松下正和「文化財の救出-水濡れ歴史資料を救う方法-」(いなみ野学園大学院講座)@いなみ野学園、2015年11月22日
△川内淳史「『アーカイブズ』とは何か?」(三木市人権・同和教育研究大会)@三木市文化会館、2015年11月14日
△奥村 弘「日本における自然災害と地域歴史遺産保全の最前線」(第3回上海大学・大阪市立大学国際シンポジウム)@上海大学、2015年11月15日
△加藤明恵・吉川圭太・吉原大志「災害から地域歴史資料を守る」(広島県行政文書・古文書保存管理講習会)@広島県立文書館、2015年11月20日
△加藤明恵「歴史資料ネットワークの活動動向-『史料ネット事務局資料』の整理と検討-」(大阪歴史科学協議会帝国主義研究部会)@大阪市立西淀川区民センター、2015年12月19日
△前田結城・東野将伸「自然災害と地域資料/水損資料修復ワークショップ」(滋賀大学経済学部講義「地域における歴史資料の保存と公開と活用の実践論」)@滋賀大学経済学部付属史料館、2016年1月12日
△松下正和「被災資料の保存その意義は?-災害後を生きる『よすが』に-」(西播磨高齢者大学ゆうゆう学園)@西播磨文化会館(たつの市新宮町)、2016年1月15日
△吉原大志「歴史資料ネットワークの現状」(高知県文化財防災意見交換会)@土佐山内家宝物資料館、2016年1月16日
△前田結城「ひととまちの記憶を未来へ-地域歴史文化の担い手として-」(いちょうカレッジ)@大阪市立総合生涯学習センター、2016年1月22日
△吉川圭太「阪神・淡路大震災資料の活用の現状と課題」(第5回被災地図書館と震災資料の収集・公開に係る情報交換会)@神戸大学社会系図書館、2016年1月22日
△川内淳史 パネルディスカッション「地域と共に、市民と共に考える文化財の防災減災」パネラー(独立行政法人国立文化財機構「文化財防災ネットワーク」公開シンポジウム・地域と共に考える文化財の防災減災Ⅱ)@九州国立博物館、2016年1月24日
△吉川圭太「震災資料としての活動記録」、加藤明恵「『史料ネット事務局資料』の概要と特徴」、吉原大志「被災文化財等保全活動の対象を考える」(東京文化財研究所「被災文化財等保全活動の記録に関する研究会」)@東京文化財研究所、2016年1月29日
△前田結城「地域で歴史を学びあうことのおもしろさを見なおす」(第14回歴史文化をめぐる地域連携協議会)@神戸大学瀧川記念学術交流会館、2016年1月31日
△奥村 弘「歴史の中の地域コミュニティ-戦中、戦後、阪神・淡路大震災から考える-」(戦後70年記念事業コミュニティーフォーラム)@大阪市中央公会堂、2016年2月9日
△松下正和「災害資料を活かした自主防災活動について」(「歴史から学ぶ防災2015-災害の記憶を未来に伝える-」現地学習会)@すさみ町総合センター集会室、2016年2月28日
△奥村 弘「日本列島における地域社会変貌・災害からの地域文化の再構築」(人間文化研究機構 広領域連携型基幹研究プロジェクトキックオフ・シンポジウム)@コクヨホール、2016年3月19日
△川内淳史「歴史資料ネットワークの活動の成果と課題-30周年へ向けて-」(第2回全国史料ネット研究交流集会)@郡山市市民プラザ、2016年3月20日
△吉原大志「被災資料の取り扱い・応急処置」(和歌山県文化財保護指導委員後期研究会)@和歌山県民文化会館、2016年3月22日
△吉原大志「災害から地域の文化財を守る」(香川県文化財保護管理指導事業文化財巡視報告会)@香川県立ミュージアム、2016年3月25日
△松下正和「佐用郡内の古文書所在調査-地域の皆さんで歴史資料を守り伝えるために-」(佐用郡地域史研究会)@さよう文化情報センター、2016年3月27日
△Daishi YOSHIHARA “Possibility of citizens since the Great Hanshin-Awaji Earthquake in 1995 -Historians’Challenge””Grass-roots citizen volimteers as a solution for disaster preparedness”(American Institute for Conservation of Historic and Artistic Works 44th annual meeting)@The Palais des Congres in Montreal,Canada,5.16-17.2016
△川内淳史「市史編さんとまちづくり」(みき歴史資料館講演会)@三木市立みき歴史資料館、2016年5月22日
△川内淳史「阪神・淡路大震災被災地における震災資料の現状と課題-民間資料と行政文書について-」(日本歴史学協会・日本学術会議史学委員会「史料保存利用問題シンポジウム2016」)@駒澤大学、2016年6月25日
4 災害対策
〔東日本大震災・長野県北部地震〕
2011年3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)とそれに伴う津波災害、およびその翌日に発生した長野県北部地震により、東日本地域は甚大な被害に見舞われた。史料ネットでは震災発生直後より被災地の史資料ネットの活動の立ち上がりを支援するとともに、被災地後方より活動のバックアップを行った。また2011年4月に文化庁の提起によって結成された被災文化財等救援委員会(2013年3月解散)の構成団体として参加し、同委員会による文化財レスキュー事業の一翼を担った。2014年7月には、旧救援委員会の枠組みを引き継ぐ形で、独立行政法人国立文化財機構によって「文化財防災ネットワーク推進事業」が開始され、史料ネットも当事業による文化遺産防災ネットワーク推進会議の参画団体となった。
震災発生より5年以上が経過したが、被災地で活動する各史資料ネットでは、現在でもレスキュー資料の整理およびクリーニング作業が継続して行われている。これら各地の史資料ネットと情報の共有をはかりつつ、必要な支援を継続して行っているところである。
〔関東・東北豪雨〕
2015年9月7日に発生した台風18号(同日、温帯低気圧に変化)の影響により、9月10日までに茨城県や栃木県など関東地方北部において豪雨となった。この豪雨により鬼怒川の堤防が決壊し、茨城県常総市などで甚大な被害が発生した。被災地では、発災当初より茨城史料ネットによる民間所在史料のレスキュー、および青木睦氏(国文学研究資料館)らによる常総市役所行政文書等のレスキューが実施され、現在でも被災資料のクリーニング作業が継続されている。史料ネットでは茨城史料ネットに対して活動資金として10万円を緊急対応基金から送金するとともに、被災地の活動に対して委員の派遣や後方等、後方支援活動を実施した。また、ニュースレター81号・82号において高橋修氏(茨城史料ネット代表)による「関東・東北豪雨災害 資料レスキュー私記」を掲載し、茨城史料ネットによる活動の周知を図るとともに、活動資金の支援についての呼びかけを行った。
〔2016年熊本地震〕
2016年4月14日以来、最大震度7を記録する2回の大きな地震のほか、これまでにない頻度での余震が継続的に発生した。熊本県を中心に大分県など九州各地で大きな被害をもたらした「2016年熊本地震」が発生した。史料ネットでは地震発生直後より、被災地の歴史関係者と連絡をとりつつ、被災資料救済保全活動の立ち上げに向けて対応を協議してきた。4月19日の段階で早くも熊本市立熊本博物館が民間所在被災史料に関する情報提供を呼びかけるなど、発災後の早い段階から現地関係者によるレスキューに向けた動きが立ち上げられた。同月23日には熊本大学文学部付属永青文庫研究センターに事務局を置く、県内の大学県警社や学芸員らによる「熊本被災史料レスキューネットワーク(熊本史料ネット)」が立ち上げられ、被災地での被災資料救済保全活動を開始した。熊本史料ネットは現在、個別の要請に基づく被災史料レスキューを展開しつつ、行政当局と連携しながら、被災市町村の地域史料の状況についての情報収集を進めている。また、6月12日には九州史学研究会による情報交換会「熊本地震と被災資料の後方支援」が開催され、委員を派遣した。史料ネットとしては、熊本史料ネットに対する活動支援募金の事務代行を行うとともに、被災地周辺の愛媛、宮崎、鹿児島の各ネットや国立文化財機構・文化財防災ネットワーク推進事業などと連絡をとりあいつつ、被災地での活動を全面的にバックアップする後方支援活動を展開しているところである。
5 組織と運営
今年度の運営委員会は第154回(2015年7月5日)から第166回(2016年6月9日)までの計13回を開催した(第163回・第164回は臨時)。運営委員の委員会への出席率もよく、活発に意見を交わした。
従来のメールニュースの配信に加え、2012年7月1日に開設したホームページを中心に情報提供を行った。引き続き、ブログを中心とした情報提供を行い、2015年6月から2016年5月末までの訪問数は34090、ページビューは58489であった。訪問者数は増加傾向にある。またtwitterアカウント(@siryo_net)を通じたリアルタイムの情報発信や、facebookページの活用も進めている。ニュースレターは、3回(2015年11月10日第80号、2016年2月19日第81号、2016年5月30日第82号)発行した。また、過去に発行したニュースレター(第71号~第76号)のPDF化を進め、神戸大学附属図書館震災文庫のホームページ上で公開する予定である。
2015年6月現在の会員数は学会会員8団体、個人会員156名(昨年比2減)、学生・院生会員9名(同比3増)、サポーター47名(同比3減)、ニュースレター購読64名(同比7減)の計284名(同比9減)であった。学生・院生会員で新規の入会者が見られた一方、定年退職を契機とする個人会員退会者なども見られ、全体として会員数は減少となった。
なお、史料保全活動に関わるボランティア登録数は、2016年6月9日現在99名である。
2015年度 運営委員・事務局・会計監査委員一覧(五十音順) ※太字表記は事務局員兼任
<運営委員>大国正美(神戸史学会)・奥村弘(神戸大学史学研究会)・小野塚航一(大阪歴史科学協議会)・加藤明恵(大阪歴史学会)・川内淳史(個人会員からの選出)・河野未央(個人会員からの選出)・佐賀朝(大阪歴史科学協議会)・東野将伸(日本史研究会)・藤田明良(個人会員からの選出)・前田結城(個人会員から選出)・松岡弘之(大阪歴史科学協議会)・松下正和(個人会員からの選出)・吉川圭太(個人会員からの選出)・吉原大志(個人会員から選出)
<事務局>浅利文子(事務局員)・奥村弘(代表)・小野塚航一(事務局員)・加藤明恵(事務局員)・川内淳史(事務局長)・永野弘明(事務局員)・藤田明良(副代表)・松下正和(副代表)・吉川圭太(事務局員)
<会計監査委員>澤井廣次・松本充弘
6 出版および論文などの掲載
史料ネット委員による論文などの掲載は下記の通りである。
奥村 弘「日本社会において地域歴史資料を未来へつなぐことの意味-歴史資料ネットワーク結成20年、大規模災害の中で考える」『歴史評論』783号、2015年7月
奥村 弘「大災害から地域歴史文化を守り伝えるために-歴史資料ネットワークの活動から」神戸大学震災復興支援プラットフォーム編『震災復興学 阪神・淡路20年の歩みと東日本大震災の教訓』ミネルヴァ書房、2015年10月
奥村 弘「歴史史料の保全と活用-大規模災害と歴史学」大津透ほか編『岩波講座日本歴史 第21巻 史料論』、岩波書店、2015年12月
奥村 弘、川内淳史(寄稿) 岩波書店編集部編『3.11を心に刻んで2016』、岩波書店、2016年3月
奥村 弘「都市災害の記憶の共振とその歴史化:阪神・淡路大震災と東日本大震災から考える」(第11回海港都市国際シンポジウム・第5回世界海洋文化研究所協議会大会報告要旨)『海港都市研究』11号、2016年3月
加藤明恵「『史料ネット事務局資料』の概要と特徴」東京文化財研究所編『「被災文化財等保全活動の記録に関する研究会」報告書』東京文化財研究所、2016年3月
川内淳史「資料保全活動20年の意義-『全国史料ネット研究交流集会』の報告を通じて」『歴史学研究』935号、歴史学研究会、2015年9月
松岡弘之「鈴木重雄への旅」神奈川地域資料保全ネットワーク編『地域と人びとをささえる資料-古文書からプランクトンまで』、勉誠出版、2016年5月
松下正和「阪神淡路大震災から始まった歴史資料ネットと地域への展開-関西地域における震災・水害と文化財防災-」(九州国立博物館編『平成27年度文化財防災ネットワーク推進事業-九州国立博物館の取り組み-』、同、2016年3月
松下正和・吉原大志ほか「座談会 身近な文化財を災害と日常の滅失から守るために」『翰苑』第5号、近大姫路大学人文学・人権研究所、2016年3月
吉川圭太「震災資料としての活動記録」東京文化財研究所編『「被災文化財等保全活動の記録に関する研究会」報告書』東京文化財研究所、2016年3月
吉原大志「文化財等の災害対策をめぐる地域体制整備の現状について」『保存科学』第55号、東京文化財研究所、2016年3月
吉原大志「阪神・淡路大震災20年-記憶を伝える・記録を守る-」『寒川町史研究』第28号、寒川文書館、2016年3月
吉原大志「被災文化財等保全活動の対象を考える」東京文化財研究所編『「被災文化財等保全活動の記録に関する研究会」報告書』東京文化財研究所、2016年3月
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