2024年8月22日に発生した台風10号は、8月29日鹿児島県に上陸した後、四国を通過して9月1日に温帯低気圧に変わりました。この台風により各地で大雨・強風による被害が発生し、関東・東海地方でも線状降水帯の発生による大雨や土砂崩れ、道路の冠水といった被害が発生しました。この度の災害による被害を受けた皆さまに、心よりお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復旧をお祈り申し上げます。
地域に残る歴史資料を保全するため、被災地で活動されているボランティアの皆さまに私たち歴史資料ネットワークからお願いがあります。また、2018年台風21号、2019年台風19号など、近年9月から10月にかけて台風による災害が多発しています。被災地以外の地域にお住いの皆さまにおかれましても、災害への備えとともに、被災資料の保全についてもご理解を賜りますと幸いです。
■水や泥で汚れた古い記録を捨てないでください
災害復旧の過程で、被災した建物から古文書などが出てくることがあります。これらは一見するとゴミのように見える場合がありますが、地域の貴重な歴史を記録したかけがえのない財産ですので、安易に処分しないでください。また、水害で被害を受け、泥水で汚れた紙の資料は、カビが生えるなど劣化していることがありますが、適切な処置を行うことで、修復することが可能な場合があります。
■そもそも歴史資料って何?
「うちにはそんな古いもの・貴重なものなんてない」とすぐに処分しないでください。国や県や市町村による指定文化財だけが歴史資料ではありません。下記のようなものも、地域や家族・個人の歩みを示す貴重な資料です。
•古文書(くずした文字で和紙に書いたものなど)
•古い本(和紙に書かれて冊子にしてあるものなど)
•明治・大正・昭和の古い本・ノート・記録(手紙や日記など)・新聞・絵
•写真やフィルム、ビデオテープやホームムービーなど
•古いふすまや屏風(古文書が下貼りに使われている場合がよくあります)
•自治会などの団体の記録や資料
•農具、機織りや養蚕の道具、古い着物など、物づくりや生活のための道具など倒壊した家屋の下敷きとなったり、水や泥で汚れて一見するとゴミにしか見えないものでも歴史資料である場合があります。
これらのものは捨てたり焼いたりせず大切に保管下さい。早急な処置によって、修復が可能な場合があります。■どこにあるの?
これらのものは
•旧家の母屋や蔵、あるいはその中の木箱や和箪笥、長持など
•公民館のロッカーやその中の段ボール箱などに収められていることが多いようです。■どこに相談すればいいの?
災害復旧ボランティアの方は、処分する前に所蔵者に確認してください。また史料所蔵者の方々も安易に廃棄・売却などせず、私たち史料ネットにご相談ください。
行政の方々も復興業務で日々大変なご苦労があろうかと思います。ライフラインが復旧し、文化財業務に戻った段階ででも結構ですので地域の歴史資料の安否確認活動や被災史料の保全活動にご協力賜れば幸いです。
■濡れた資料はどう扱えばいいの?
歴史資料ネットワークのHP「資料の修復方法」のほか、下記の団体や機関のHPでは、被災した資料や写真、ビデオテープの応急処置について紹介されています。
NPO法人 映画保存協会 災害対策部
(8mmフィルムやビデオテープの応急処置に関する動画が閲覧できます)広島県立文書館
(写真の応急処置に関するPDFファイルを閲覧できます)「汚水に浸かった図書や書類の応急処置方法」(松下正和/歴史資料ネットワーク副代表)
(汚水を被った図書や資料の応急処置についての動画が閲覧できます)■なぜ保全する必要があるの?
歴史資料ネットワーク(事務局・神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター内)は、1995年に発生した阪神・淡路大震災の被災地で、歴史資料をはじめとした文化遺産の救出・保全をおこなってきた、歴史研究者を中心としたボランティア団体です。全国の歴史学会や関係団体、自治体や市民のみなさまと協力しながら、地域社会の民間資料の救出や文化財の被害調査などに取り組んでいます。
私たちがこのような活動を行ってきたのは、災害が起きるとそれを契機に家や蔵に古くから置かれていた歴史資料が破棄・処分されてしまうことがよくあるからです。これまでも、私たちが駆けつけた時にはすでに歴史資料が処分された後であったということが何度もありました。
家々にはさまざまな形で家の記録や地域の歴史を伝えるものが数多く残されています。しかし、今回の災害により長く伝えられてきた古い文書や記録などがなくなってしまうとすれば、それは家にとっても地域にとっても残念なことといわざるをえません。
地域と、そこに生きた人々の歴史を復元するための唯一かつ貴重な地域の歴史資料の保全活動にご協力を賜れば幸いです。
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