5月6日に茨城県および栃木県において大きな竜巻被害が発生いたしました。

被害に遭われた皆さまには心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い復旧をお祈りいたします。
現地の状況について、茨城史料ネットさんより速報(『茨城史料ネットニュースレターNo.43』)が入りましたので、
転載させて頂きます。
ご周知のほど、よろしくお願いいたします。(か)
■茨城史料ネットホームページ

【茨城史料ネットニュースレターNo.43】
 5月6日に発生した竜巻は、茨城県・栃木県に大きな爪痕を残しました。茨城史料ネットでは、5月8日に、事務局の山川千博と泉田邦彦が緊急に現地に入り、文化財・歴史資料の被災状況の確認を行いました。その成果を、山川の文責による速報記事として掲載・配信します。転載・転送自由です。関係団体の皆様は、被災状況の周知に御協力ください。また文化財・歴史資料の被害について、情報をお持ちの方は、茨城史料ネット事務局まで、お寄せください。よろしくお願いします。
速報 5月6日の竜巻による茨城県つくば市北条の被災状況
 山川千博
はじめに
5月6日に発生した竜巻により、茨城県つくば市・常総市、栃木県真岡市・益子市・茂木市をはじめとして、各地において被災された方々に、心からお見舞いを申し上げます。
茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク準備会(茨城史料ネット)では、災害発生から3日目の5月8日、被災地の中でも特に大きな被害が報じられた、つくば市北条地区を訪れ、被害の確認調査を行いました。この時の知見をもとに、同地区の被害の概要及び、文化財・歴史資料の被災状況について、簡単に報告したいと思います。
1、竜巻の進路と北条地区の被害
常総市大沢新田で発生したとされる竜巻は、北東方向へと進み、つくば市北条地区で国道125号線を横切り、雇用促進住宅北条宿舎を襲いました。宿舎ではガラスが割れ、多くの家財道具が瓦礫として搬出されています。その後竜巻は、主要地方道取手・つくば線や、県道石岡・つくば線沿いに展開する商店街・住宅地に大きな被害を及ぼしながら、県道筑波山・公園線(旧つくば道)沿いの谷へと入り込み、さらに北東方向の集落(市立北条小学校北側)へと抜けました。竜巻が直接通過した場所では多くの倒壊家屋が見られ、竜巻の外縁部に接触した多くの家屋でも、屋根・壁などに被害が出ています。
2、指定文化財の被災状況
大きな被害を受けた県道石岡・つくば線沿いの商店街には、国の登録有形文化財が2件存在します。そのうち旧矢中家住宅(建物2棟)では、瓦や壁の一部が崩落し、窓ガラスが何枚か割れるなどの被害がでています。その保全には、以前からNPO法人「”矢中の杜”の守り人」が関わっており、今回の被災に際しても、いち早く対応していました。災害発生3日目にして、旧矢中家住宅への応急処置はほとんど終えているようです。また、もう一件の宮本家住宅(建物8棟)では、瓦の一部が破損したものの、それ以上の大きな被害は受けていませんでした。
他にも北条の商店街付近には、県指定文化財・八坂神社石造五輪塔や、市指定文化財・毘沙門天種子板碑が存在しますが、どちらも、竜巻の通過ルートから僅かに外れており、被害は確認されませんでした。
3、古民家・土蔵の被災状況
指定文化財以外にも、北条の商店街や県道筑波山・公園線沿いには、旧家が多く存在し、歴史的な町並みを形成しています。今回の確認調査にあたり、古民家にお住まいの方や土蔵を所有するお宅には、東日本大震災への対応時に作成した、「被災した歴史資料についてのお願い」というチラシを配布して回りました。そうした活動の中で、あるお宅の土蔵1棟に立ち入らせていただき、所蔵資料の確認を行いました。土蔵は、以前煙草の乾燥に使用したもので、中にはほとんど何もない状態でしたが、古い写真を10点ほど見つけたため所有者に説明し、保全をお願いしました。
また、別のお宅では、家屋の外壁が剥がれ落ちて中に多くの掛け軸等が見えたため、確認したところ、200点以上の掛け軸を確認しました。今回は写真を撮影させていただき、今後の所蔵方法に関しては、後日、家屋内部の片付けが済んだ後、改めて相談に伺うことになりました。
4、周知の歴史資料の被災状況
今回の調査にあたり、北条地区に、周知の古文書を所蔵するお宅が数件所在するという情報を、NPO法人歴史資料継承機構から事前に得ていました。被災地外縁部での聞き取り調査の結果、古文書を所蔵するお宅のうちの何件かは、商店街の中でも激甚な被害を受けた部分に位置していることがわかりました。現地ではすでに、瓦礫の撤去や被災した家財道具の搬出など、家屋・土蔵内部の片づけが始まっており、その中に含まれる歴史資料の流出が心配されます。しかし、まだ災害直後であり、被災者の心情を考慮すると、所蔵資料に関する詳しい質問は憚られ、今回はチラシの配布のみを行うに止めました。幸い、そのうちの一件のお宅では、後日もう一度来てくださいと言っていただけたため、今後、時機を見て再訪する予定です。
5、今後の課題
今回、茨城史料ネットとしては、東日本大震災の被災資料への対応が終わらぬうちに、新たな被災資料への対応の必要が生じました。つくば市北条地区を通過した竜巻は、局地的にですが、建造物に非常に大きな被害をもたらし、その中に所蔵される歴史資料についても大きな被害が予想されます。今後、この確認調査で得られた知見を広く配信し、地元自治体、地域住民、他団体と協力しながら、文化財・歴史資料の保全に努めなければなりません。
また、周知の古文書が流出の危機に瀕しています。しかし、所蔵者にとっては、ライフラインの復旧・瓦礫の撤去等、生活復旧が最優先の課題です。生活が落ち着いて、その後にようやく歴史資料の保護など、違った場所に目を向けられるのでしょう。今後、早過ぎず、遅過ぎず、このタイミングを慎重に見極めつつ、今回把握した所蔵者のもとへ、再訪しようと思います。
北条地区のみならず、竜巻が発生した地点とされる常総市大沢新田から、北条地区へ至るまでの地域にも、当然ながら被害は出ています。この間には、水守・山木などの旧集落が所在し、今後はこれらの地域への確認調査も必要になるでしょう。さらに、被害が報告されている常陸大宮市・桜川市などでの文化財・歴史資料被害に関しても、確認を急がねばなりません。これらの地域に関しても、広く、情報提供を呼び掛けたいと思います。
最後になりますが、今回の竜巻被害による被災地の、一刻も早い復興を願っております。
                             (2012年5月8日記)