■第二回落合重信賞に歴史資料ネットワーク
 神戸史学会は、第二回落合重信賞を、被災歴史資料の保全や歴史文化を生かす社会づくりの運動を進めている歴史資料ネットワーク(事務局・神戸大学大学院人文学研究科、代表奥村弘・同研究科教授)に贈ることを決めました。
 歴史資料ネットワークは、一九九五年一月一七日に発生した阪神・淡路大震災によって被害を受けた歴史資料・文化財の救済・保全活動のため、同年二月四日、関西に拠点を置く歴史学会を中心に設立されました。大学教員や院生・学生、史料保存機関職員、地域の歴史研究者などがボランティアとして参加、二〇〇二年五月には市民と歴史学会による組織として会員制に移行し、現在二七〇人の会員がいます。阪神・淡路大震災では三年間にのべ八〇〇人のボランティアを動員し、被災地を巡回しながら、近世から現代に及ぶ文献資料など、段ボール箱換算で一五〇〇箱相当を救出しました。
 また一九九九年の台湾大震災では現地を訪問し、阪神・淡路大震災の経験を伝え、二〇〇〇年の鳥取県西部地震、二〇〇一年の芸予地震、二〇〇三年の宮城県北部連続地震、二〇〇四年の新潟県中越地震などでは、被災地へボランティア派遣や、ノウハウ・情報などの提供により活動を側面から支援しました。その結果、山陰史料ネット、愛媛史料ネット、宮城史料ネット、新潟史料ネットなどが設立されました。近年では、大規模な災害に遭う前から、災害時の史料保全活動のためのネットワーク作りの動きも出てきて、山形や福島、岡山などで「予防ネット」と呼ばれる組織も登場しています。
 また二〇〇四年には、台風が一〇個も上陸し、新潟・福井・兵庫・京都府などが水害に見舞われました。史料ネットでは新潟や福井などの支援を行う一方、兵庫県と京都府内の被災自治体八市一〇町を訪問し、水害被災地での活動に取り組みました。水で濡れた紙史料は、高温の中ですぐにカビが繁殖して腐敗が始まり、保全が困難でこれまで、大規模水害時に、多くのボランティアを組織した救出活動は稀有なことでした。これらの成果を、二〇〇九年には『水損史料を救う 風水害からの歴史資料保全』(松下正和・河野未央編、岩田書院)として刊行しました。本書は、水損史料救出のノウハウ、生活復興や史料救出に対する熱い想いが込められ、被災史料の保全・救出活動の歴史に新たな一ページを加えることになりました。こうした先駆的な取り組みを長く継続していることが贈呈理由です。
【贈呈式と記念講演会】
日時 五月八日午後一時半
会場 神戸市東灘区深江本町三―五―七 深江会館
   〇七八・四一一・〇四七五 阪神深江駅下車、南徒歩一分
講演
  奥村 弘・神戸大学教授「被災史料から見えた地域史像」
  松下正和・神戸大学講師「被災史料の救出と地域遺産」
  河野未央・神戸大学地域連携センター研究員による水濡れ史料の修復実演のワークショップもあります。
参加無料。問い合わせは、神戸史学会編集部・大国方〇七二・七八三・一六七〇か、メール(Makomari123@nifty.com)で。不在が多いのでできればファックスかメールでお願いします。