歴史資料ネットワークは、阪神・淡路大震災後の被災史料保全活動の開始以来、今年の2月で、創立20年を迎えることとなりました。当初からこの活動に携わった私自身、はじめはその活動期間を1年程度と考えていました。しかしながら、私達は活動の中で、被災した地域歴史遺産保全、震災そのものを未来に伝える震災資料の保存や活用は、極めて長い時間がかかることを理解するようになりました。そして、歴史資料ネットワークは、関西を中心とする歴史学会と、活動に共感・参加してくださる方々の共同組織として持続的活動をすすめることとなりました。

20年間、活動を継続しえた背景には、阪神・淡路以来、多くの市民や歴史文化関係者の励ましがありました。最近、創立期以来、史料ネットを長年にわたって支えてくださった方々が亡くなられ、いっしょに被災地を巡回したこと、講演会を開催したことなど、様々な思い出がよみがえり、寂しさや残念さを覚えることが増えてきました。この場において、お亡くになりなられた方々に再度お礼を申し上げ、ご冥福をお祈りいたします。

大震災後、オウム真理教事件等で中央のマスコミでは急速に被災地の情報は報道されてなくなり、3年後ぐらいから被災地周辺以外から、まだやっているんですかという声もかかるようになりました。現在、東日本大震災から4年が経ち、そこでも風化が言われています。しかし、阪神・淡路大震災の経験もあり、大災害の影響は10年、20年と長期化することが社会的に理解されつつあるようにも思います。これにくらべるなら、当時、大災害とそれが歴史文化に与える影響の深さについて、社会的な認識はかならずしも十分でなく、歴史文化関係者においてもそれは同様であったと思います。

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そのような中で、これまで活動が継続しえたのは、客観的に見るなら、阪神・淡路大震災後、日本列島は地震の活動期に入り、2年から3年に一度、大きな被害を与える直下型地震が起こるようになり、さらに東日本大震災が起こったこと、21世紀に入って、大規模水害がほぼ毎年起こるようになったことがあげられます。歴史資料ネットワークは、阪神・淡路での経験を日本各地の大規模自然災害の現場に伝え、そこでの活動を支援することを組織の目的に掲げていますが、それを継続的に行わざるを得ない状況が生まれました。と同時に大災害が起こった時、地域の歴史遺産を守り、歴史文化を未来に引き継ぐための活動に、大学生、大学院生、若手の研究者の積極的参加があったこと、阪神・淡路以来活動してきた関係者が継続して活動に携わったことの二つが、主体的に活動を継続していく上で、もっとも重要であったと考えています。災害毎に若い世代が参加することによって、歴史資料ネットワークの事務局は、次の世代へとその担い手を繋いできました。

また歴史資料ネットワークの活動と様々な形で関係した方々は、日本各地で同様な活動を進めるようになりました。現在、全国で20を超える府県を単位とする大災害時に対応するネットワーク組織が生まれ、東日本大震災では相互に協力して広域対応を行うようになっています。さらに今年2月14日、15日には、神戸で全国史料ネット研究交流集会を開催するまでに至っています。もちろん全国の各ネットも史料ネットと同じように、その運営は試行錯誤の連続であり、困難も多いのですが、災害時の活動が社会通念化し、このように支え合うことができるようになるとは、私達が史料ネットを立ち上げた時には考えもしないことでした。

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現在、日本社会の大きな変容と大災害の続発の中で、地域の歴史資料保全と未来への継承は極めて困難となっています。その厳しさを捉えながら、歴史文化に携わることの社会的な意味を現場で考え、具体的な方法を鍛え、様々な関係者と交流を深めていく史料ネットの活動は、多くの方々にとって魅力のあるものであり、社会的に重要なものであったと考えています。

阪神・淡路大震災20年、歴史資料ネット結成20年にあたって、歴史資料ネットワークは、研究交流集会で神戸宣言を採択し、私達の活動をより豊かにし、地域の歴史文化を守り継承することを訴えました。その全文は、本ニュースレターに掲載していますが、「歴史文化に関わる多様な分野の専門家と地域の歴史文化の多様な担い手が、ともに手を取りあって、文化財等の保存・継承活動を一層強めてい」くことを明確にするものとなっています。専門家と地域社会の担い手が協力することで歴史文化の継承が可能となるとの宣言は、当然のことのように見えますが、これを実現することは容易なことではありません。これまで同様、試行錯誤の中で失敗することもあるかと思いますが、歴史資料ネットワークは、多くの方々とともに、必ず来る大規模地震に備え、地域の歴史文化を守り、未来に継承していくための活動を進めていきます。みなさんのこの活動への参加と支援を引き続きお願いするとともに、さらに多くの方々に支援の輪を広げていただけるようお願いする次第です。

(おくむら・ひろし:歴史資料ネットワーク代表委員)

 

この記事はニュースレター78号に掲載されたものです。通常、ニュースレターは会員・サポーターの皆様にお届けしておりますが、この記事は特別にウェブサイトにも掲載いたします。